サステナブルな酪農、有機循環型酪農を、もっと身近に。
オーガニックを、もっと気軽に。

有機酪農のいま

小池 竜一 さん(別海ウェルネスファーム) 有機JAS認証の仕事~オーガニック生乳~

小池 竜一 さん(別海ウェルネスファーム) 有機JAS認証の仕事~オーガニック生乳~
もくじ

農林水産省による消費者調査によれば、約89%が有機やオーガニックという言葉を知っているものの、有機JAS表示に関する規制などを正確に知っているのは約4%にすぎないといいます。 

実際に有機JASはどのように認証されているのでしょうか?2022年12月に有機JAS認証を取得した別海ウェルネスファームの小池 竜一さんに「有機JAS認証の仕事」を伺いました。小池さんは、2018年、別海ウェルネスファームに立ち上げメンバーとして参画。それ以来、小池さんは有機JAS認証の取得に尽力されました。

有機畜産物(オーガニック生乳)の条件とは?

有機JAS認証に種類があるのをご存じでしょうか?有機JAS認証の種類は、有機農産物、有機畜産物、有機加工品、有機飼料などに分類されます。牛乳やヨーグルトの原料である生乳は、JASにおいて「有機畜産物」に該当します。有機JAS では、有機畜産物の生産方法の原則 として、以下の3つを掲げています。

  1. 環境への負荷をできる限り低減して生産された飼料を給与することを基本とする
  2. 動物用医薬品の使用を避けることを基本とする
  3. 動物の生理学的及び行動学的要求に配慮して飼養する

03.は「アニマルウェルフェア 」という言葉に置き換えることができます。「有機」の中でも生き物を扱うからこその特徴的な事項。「有機JASマークの付いた牛乳やヨーグルトに対して、“牛のえさが無農薬”というイメージはお持ちなのかなと思いますが、“アニマルウェルフェアまで配慮している”ことはあまりご存じないのではないでしょうか」と小池さん。

前述の原則を踏まえた上で、「放牧地への自由な出入り」、「放牧地の条件(広さ、農薬使用 の禁止など)」、「牛舎の条件(広さ、飼育環境、搾乳施設、衛生管理など)」、「飼料(えさ)」、「健康管理」などが認証において重要なJAS認証における審査項目です。それぞれの審査項目について詳細な基準が設けられています。JAS認証の取得を目指す酪農家は、それらの審査項目の内容を深く理解し、全ての基準をクリアする必要があります。また、各項目について内部規定を整備するなど書類化も必要となります。





有機JAS認証の取得に向けて 取組むには、その体系をしっかりと理解した上で、それを自分たちの牧場に落とし込んでいく作業が重要」と小池さん。小池さんは、長年、カネカにて食品の品質保証の仕事をしていました。食品製造の安全・安心を保つための仕組みであるHACCP、ISO 22000などの管理に関する仕事がその一つです。管理してきた 食品の種類は、食用加工 油脂、フィリング(パンの中のクリームなど) 、イースト、植物性クリーム(ホイップクリームなど) まで多岐にわたります。「HACCP、ISO 22000の体系的なアプローチや書類化の経験が、有機JAS認証の取得に向けて取り組む上で非常に役に立った」といいます。

登録認証機関との信頼関係

有機JAS認証を取得するためには、農林水産大臣が登録した「有機JASの登録認証機関」から認証事業者として認証を受ける必要があります。具体的には、1.有機JASの登録認証機関が開催する講習会に参加、2.有機JASの基準を満たすための整備、3 登録認証機関へ申し込み・申請書の提出、4.登録認証機関による審査および検査、そして5.判定委員会の結果を踏まえ、晴れて有機JAS認証の取得となります。 

牧場の環境・状況は、牧場によって様々。有機JAS認証の規定はおおまかなことは規定してありますが、「自分たちの牧場ではどうなのか」という点は、認証機関との協議で詰めていく必要があります。酪農業は、カネカにとって初めての取り組みでした。「JASの審査項目は多岐にわたり、分からないことばかり。そこで、毎週のように認証機関にお邪魔していました。認証機関に教えてもらったことを、自分たちの牧場に落とし込むという試行錯誤の連続でした。認証機関の方々には本当にお世話になりましたし、今も様々な情報交換をさせて頂いています 」と小池さん。認証機関との間で信頼関係を築くことが有機JASの認証には重要であることが伺えます。



牛にやさしい牧場作り

別海ウェルネスファームは、2018年の事業構想の段階から有機JAS認証取得 を前提とした牧場作りを目指したといいます。別海ウェルネスファームのコンセプトは「人にやさしい、牛にやさしい、環境にやさしい」酪農。JAS生産の原則の一つであるアニマルウェルフェア面でこだわりが。「有機JAS認証の 基準でも放牧地を整備することが明記されていますが、“できる限り牛に 自由に過ごしてもらいたい”との想いから、牛が放牧地に行きたければ行けるようにし、牛舎の中で過ごしたければ、過ごせるように牧場を設計しました」と小池さん。牛が放牧地と牛舎を自由に行き来できる牛舎形態を「フリーアクセス牛舎」といいます。



またアニマルウェルフェアの観点では、他にもこだわりがあります。それは牛にとっての家である牛舎内の快適な環境作り。別海町の冬は厳しく、マイナス20℃を記録することも。カネカ製品の断熱材を牛舎の天井と床に使用することで、寒さから牛を守ってくれます。 また、別海町でも温暖化の影響もあり、夏場は暑くなってきています。牛は暑さに弱いため、ある一定温度を超えると牛舎ではシャワーと扇風機を起動させること で快適な空間を維持しています。「牛も人間と同じように、ストレスなく暮らすことが一番ですよ」という小池さんの言葉が、アニマルウェルフェアの本質とは何かを教えてくれます。



より高いレベルでの牛の健康管理

有機JAS認証の審査項目でもある健康管理。別海ウェルネスファームでは、牛の健康管理には特に気を使っているといいます。「牛の体調が悪くなる前に気づいてあげることが肝要です」(小池さん)。

別海ウェルネスファームでは、より高いレベルでの健康管理を実現するため、自動搾乳機を導入しています。第一に、自動搾乳機を導入することで酪農家は搾乳の時間を大幅に削減することができ、その分、牛一頭一頭に目を配ることが出来ます。第二に、自動搾乳機のITシステムが、生乳の乳質を検出し、牛の体調に関するデータを共有してくれます。たとえば、ある牛の乳質が悪い(血乳が混入しているなど )と、ITシステムがアラームを出してくれます。酪農家はそのアラームを基に、その牛の状況を自分の目で確認。治療の必要性の有無を早く判断できます。このように、「ITシステムと酪農家が両輪となって、牛が病気になりにくい環境を作ることに注力しています」と小池さんは教えてくれました。



有機酪農をもっと身近にしたい

別海ウェルネスファームは、事業立ち上げから約4年後の2022年12月20日にオーガニック生乳(有機畜産物)の有機JAS認証を取得しました。小池さんは、「私たちの取り組む有機酪農が、これからの酪農家にとって意味のあることだと考えています。ですので、この取り組みをより多くの酪農家の皆さんに知って頂きたい」といいます。

そのための取り組みとして、小池さんは有機JAS登録認証機関が主催する講習会で、先進事例のスピーカーとして定期的に参加。有機JASに興味のある酪農家や畑作農家 の皆さんに対して、別海ウェルネスファームの有機酪農の取り組み を講演されているとのこと。「最近では、有機JAS認証の講習会に参加される酪農家さんの数も増えており、有機酪農に対する関心の高まりをひしひしと感じています。いろいろな酪農家さんに私たちの取り組みをより身近に感じてもらいたい」と小池さんは熱く語ります。小池さんの話を聞いて、北海道の大地に有機酪農の輪が少しずつ広がっていることを実感できました。



出典:

「有機食品の市場規模および有機農業取組面積の推計手法検討プロジェクト」(農林水産省農産局 農業環境対策課)

https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/attach/pdf/chosa-11.pdf

有機畜産物の生産行程管理者 ハンドブック(農林水産省)

https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/yuuki-302.pdf

有機JAS認証の仕組みと流れ(株式会社ACCIS)

https://www.accis.jp/jas3.html